心地よく暮らしたい。

1988年3月生まれ。都内で働いています(時短勤務)。夫と3歳児と3人暮らし。ヲタク。読書、手帳術、iHerb、海外ドラマetc

子へ。まだ腹の中にいる子へ。

※2020年9月に他SNSにて書いた記事を再掲しました。妊娠中、出産3日前に書いた文章。

 

 

子へ。
まだ腹の中にいる子へ。
あなたの父の話を書きます。
 
あなたの父は、あなたについて「気持ちよく暮らして欲しい」という。
これは私に対してもで、彼の愛だということ、わかる?
 
生きていくということはとにかく「不快」「不自由」「苦しみ」「つらさ」「悲しみ」が多くて、生きていることそのものが不自然なのだと思うときがたくさんたくさんたくさんある。
けれどそれを少しでも減らしてあげたい、というのが彼の気持ちです。
「幸せにする」はちょっとばかし傲慢だと思う彼は、少しでも「生きるうえで感じる居心地の悪さや辛さ、面倒さ、しんどさ」といったものを取り除くことで、相手を幸せに近づけようと試みるのです。
 
あなたのためにベビーカーを調べていたあなたの父。こちらがうんざりするほどしつこく…。それは、あなたが少しでも楽に乗れるように、おでかけが嫌にならないように、できれば好きになってもらえるように、と。一事が万事、すべてそうです。
 
あなたの父はあなたがかわいくて仕方がありません。私だって負けてないと思うけれど、私が嫌がらない限りは腹に手をやり、少しでもあなたの気配を感じたがるあなたの父を、見せてあげられないのが残念です。
あなたの服を真剣に選び、私が選んだものよりあなたの父が選んだもののほうが多いことも記録しておきます。おくるみも産まれてくる子は何人なのか、と言いたくなるほど、あなたのためにと際限ないのです。
 
あなたを迎え入れるための準備を進め、壁にガーランドをかけたいと言い出したのは私です。
でも最終的に、「自分が考えて作ったほうがかわいいものができる」と言い出し、あなたの父の担当になりました。ガーランドなんて写真に残すためだけの、親の自己満足だとよくわかっていますが、だからこそあなたの父は病院から戻る私と、初めて家に来るあなたのために、最高にかわいく、愛にあふれた場を準備したいというのです。
 
子よ。まだ腹の中にいる子よ。
あなたが生まれてくるところは、私が何度も「地獄だ」と思った世界です。生き続けることが不自然で、存在することが苦しみで、ひとは孤独で寂しく、不愉快で不誠実な世界です。
いつかあなたに、あなたを産んだことを責められても仕方がないと思っています。
 
でもどうしてもね、あなたの父を、父親にしたかったの。
 
あなたの父と出会ってから、地獄だ、と思った世界を、そうだと感じることが減り、絶望を最後に感じたのはいつだったか思い出せません。
相変わらず世の中はひどくて、目を逸らしたくなることや憤怒にまみれることも多いけど、毎晩あなたの父の頬におでこをくっつけて眠りに落ちるとき、そう悪いことばかりではない、と気付きます。あなたの父が眠っているときでさえ私と手をつなごうとするとき、孤独ではないと知ります。あなたの父の胸の中で体温を感じ頭を撫でられるとき、生きる意味はここにあると感じることができます。
 
決して楽観的でも楽天的でも肯定的でもない彼が、ただあたりまえのように私を、際限なく愛しているという、そんな光みたいなものを、私がいなくなったあとの世界にも置いておきたいと思っているのです。
 
私はあなたの父に愛されていて、あなたの父の愛を、あなたにも感じて欲しいと思う。だからあなたを産みます。
 
いつかあなたが、「なんで私を産んだのよ?!」と泣き叫ぶときがきたら、「それは本当にごめんとしかいえないし、いますぐあなたをそこから救い出すことができなくてほんと悲しいし、私とあなたの父があなたに会いたくてあなたの了解とか得ずに産んだのは紛れもない事実で、世の中が最低なのを承知で産むなんて酷いとほんとにほんとにそう思うからいくらでも責めを受けるけど、真正面からその質問に答えるなら愛がここに確かにある、あったんだということを残したくなったんだよほんと勝手にごめんねだから少なくとも私たちより長生きしてほしいって思ってる」と答えるしかないのです。
 
子よ。まだ腹の中にいる子よ。
 
この世を地獄だと感じたことのないあなたの父が言う。
「きっと嫌なことも大変なことも辛いこともたくさんあると思う。それを、少しでも取り除いてあげられて、ちょっとでも楽にできて、幸せだなって感じてもらえたらいいなって、そう思う」
 
私に何かあったとき、あなたにあなたの父の生きるよすがになって欲しいと思う。だからあなたを産みます。
 
 
世界はしんどくて生きていくなんて苦しみの連続だけど、でも私は日々幸せのほうが大きくて生きていてよかったなと思うから、あまり不安に思わず、いつでも出てきたいときに出てきてください。
あなたを受け止める準備は、してもしてもし足りないけれど、あなたを愛することは、すでに始まっています。
あなたが生き抜いていけるよう、私たちは全力をつくします。あなたの人生が閉じるとき、苦しみより幸せが少しでも多くなるよう、できることをすべてやるから、それであなたを産むことを許してください。
 
あなたは私に愛されてることを疑うだろうけれど、少なくとも私は、あなたがあなたの父に愛されていることを知っている。
あなたは、生まれる前から愛されていて、それはあなたが、どんなあなたになろうとも揺るがない。それこそが苦しみだとしても、事実として。
 
あなたの父は、あなたと私を愛してる。

 

 

 

結局ガーランドは間に合わなかったんだよな。
書いた当時、この文章を好きと言ってもらえることがあってとても嬉しかったです。